4代 齊藤裕司(ゆうじ)

 裕司氏は昭和38年(1963)に生まれ、館山高校を卒業後、当時女子美術大学学長であった柳悦孝(やなぎよしたか)氏のもとで修業し、父の光司氏と織ってきました。平成7年(1995)には日本民藝館(みんげいかん)展奨励賞を受賞し、平成21年(2009年)3月17日に千葉県無形文化財に指定されました。

 現在は各地で個展を開催し、伝統柄のアレンジやオリジナル柄の創作など、精力的な制作活動をしています。

齊藤裕司
齊藤裕司

 3代 齊藤頴(ひで)・光司(こうじ)

 兄の頴(ひで)氏は昭和元年(1926)生まれ、弟の光司氏は昭和4年(1929)生まれです。父豊吉氏の跡を継ぎ、昭和45年(1970)1月30日に兄弟揃って唐棧織製作技術保持者として千葉県無形文化財に指定されました。さらに、昭和47年(1972)4月には文化庁から「記録作成等の措置を講ずべき無形文化財」に認定され、昭和59年(1984)には千葉県の伝統工芸品にも指定されました。

 光司氏は父の豊吉氏が県の無形文化財に指定された昭和29年(1954)12月から、柳宗悦(やなぎむねよし)の甥にあたる女子美術大学教授の柳悦孝(やなぎよしたか)氏に入門し、約10年間染織の研究を続けました。平成12年(2000)には春の叙勲で勳五等瑞宝章を受章しています。

齊藤頴
齊藤頴
齊藤光司
齊藤光司

 2代 齊藤豊吉(とよきち)

 初代の茂助氏から技法を学んだ息子の豊吉(とよきち)氏は、民芸運動で有名な柳宗悦(やなぎむねよし)氏に認められ、館山の唐棧織は広く世に知られるようになりました。昭和29年(1954)12月21日には唐棧織製作技術保持者として千葉県無形文化財に指定されました。

 豊吉氏の織った唐棧織の着物を女優の山田五十鈴(いすず)が着て週刊朝日の表紙を飾ったことから、その柄は「五十鈴縞」と呼ばれるようになりました。

齊藤豊吉
齊藤豊吉
豊吉氏愛用の縞帳
豊吉氏愛用の縞帳

【1】唐棧織と齊藤家
 初代 齊藤茂助(もすけ)

 館山の唐棧織は、明治の初め頃、初代の茂助(もすけ)氏が東京蔵前に設けられた授産所(じゅさんじょ)という職業訓練所で唐棧織の技術を伝習し、館山に持ち帰ったのが始まりです。明治維新によって手に職を持たない旧武士達を救済するためにつくられた授産所には、埼玉県川越から「川唐(川越唐棧)」の職人が招かれたそうです。

 茂助氏は現在の千葉県白井(しろい)市の出身でしたが、あまり体が強くなかったので、温暖な気候で妻の生地に近い館山で仕事をするようになったようです。

齊藤茂助
齊藤茂助
茂助氏愛用の縞帳
茂助氏愛用の縞帳

 2.唐棧織の特徴

 唐棧織は40番手から80番手の細い木綿糸を使い、植物染料を用いて糸を染めることに特徴があります。植物の皮や実を煎(せん)じた液で色を調合しますが、計量に頼らずに口に含んで味覚によって色を決めます。

植物染料で染められた糸
植物染料で染められた糸
絹のような光沢
絹のような光沢

プロローグ 唐棧織とは
 1.唐棧織の歴史

 唐棧織(とうざんおり)は、「棧留縞(さんとめじま)」とか「唐棧留(とうざんとめ)」などと呼ばれ、近世初頭にオランダ人によってインド・サントーメから日本にもたらされました。唐棧は唐棧留を略したものといわれ、唐は外国を意味します。つまり、唐棧織は外国から舶載(はくさい)された縞木綿(しまもめん)ということです。棧留はインド東海岸のサントーメという港町の名からつけられたといわれています。

 粋な縞模様や異国情緒あふれる色感、絹に似たつやと風合いが江戸の人々に愛されました。また、天保の改革で贅沢品が禁止され、絹に代わる織物としてもてはやされたことなどから、江戸時代後期に大流行しました。

 かつては埼玉県川越の「川唐(かわとう)」をはじめ、様々な場所で織られていましたが、現在、植物染料を使って手で織る伝統的な唐棧織をつくっているのは館山の齊藤(さいとう)家だけです。

目次

プロローグ 唐棧織とは
 1.唐棧織の歴史
 2.唐棧織の特徴

【1】 唐棧織と齊藤家
 初代 齊藤茂助(もすけ)
 2代 齊藤豊吉(とよきち)
 3代 齊藤頴(ひで)・光司(こうじ)
 4代 齊藤裕司(ゆうじ)

【2】 唐棧織のできるまで
 染料の種類

【3】 唐棧織の柄を楽しむ

【4】 唐棧織の世界
 1.反物
 2.小物
 3.着物

唐棧織の小事典

参考文献・凡例

ごあいさつ

 唐棧織は、近世初頭にオランダ人によってインド・サントーメから日本に輸入された木綿縞織で、粋な織物としてもてはやされました。

 明治初頭に東京の蔵前に設けられた旧武士のための授産所で、初代の齊藤茂助氏が当時唐棧の生産地であった川越の職人から伝習して、この技術が館山に伝えられました。その技術を子の豊吉氏が受け継ぎ、孫の頴氏・光司氏兄弟が伝承しました。現在は裕司氏が4代目として唐棧織の制作に励んでいます。

 唐棧織は渋みのある縦縞が特徴の綿織物で、細い木綿糸を用います。植物染料で糸を染めることにより美しい色調を出し、高機によって平織りにした後、砧打ちを行うことで独特の光沢としなやかさを生み出します。

 本展覧会では、平成21年(2009)3月17日に千葉県の無形文化財に指定された齊藤裕司氏の作品を中心に、齊藤家が代々愛用してきた資料や道具類も併せて紹介し、伝統的な館山の唐棧織を理解していただく機会となれば幸いです。

平成22年7月3日
館山市教育委員会
教育長 石井達郎