垂下した右手に水瓶を持し、胸前に挙げた左手に宝珠を持する観音菩薩像で、頭を宝髻に結いあげ、三面頭飾の宝冠を戴き、正面に化仏風の証を鋳出し、冠の垂紐を両臂まで下げ、途中に2つのカールを配しています。ヒレ状に後方に張った天衣は両腕に懸り、下腹部前でX状に交差して腰裳(こしも)の瓔珞(ようらく)に達しています。瓔珞は胸前から裳先まで垂下するものと、胸前W状に懸け、左右2本の垂下をつくり、腰裳の天衣の結び目に達する構成で、タガネによる蓮点文を施こしています。裾先は脛(すね)下で終わり、くるぶしが見えるかたちに鋳造され、軽快な感じを与えます。モデリングは、腰を支点にしてくの字にそるかたちで、細身に仕上がっています。蓮肉と像は一鋳につくられ、以下の返花と八角の框座の部分に鋳かけています。
この像の鋳造年代については諸説あり、最終的な結論はまだみていません。1つは中国、隋(581~618)様式とみる見方、1つは遼(907~1125)の時代のもの、また19世紀に満州でつくられたものとする見方などですが、いずれにしても、大陸より伝えられたものには違いありません。なお地元では、古来布沼の弁天社に安置されていたものとされています。
観音菩薩立像
銅造 (総高25.8)
館山市・石井利昌氏保管