明治12年(1879)、日本最初期の写真師下岡蓮杖(れんじょう)に写真術を学んだ旧長尾藩士士族の成瀬又男が、北条町(館山市北条)に成瀬写真館を開業しました。これが安房で最初の写真館といわれています。
大正2年(1913)に川名写真館を創業した川名竹松は、大正10年(1921)に房南好影倶楽部(ぼうなんこうえいくらぶ)という写真愛好会を創設しています。東京と大阪では明治37年(1904)にアマチュア写真家の有力団体が設立されており、その流れが安房にも到来していました。
東京から近く、気候が温暖で保養地や観光地に適しているという特徴も、安房における写真文化の広がりには重要でした。被写体としての風景や名所だけではなく、都会からの文化の流入、みやげ物としての絵はがきの流行などの条件が安房には揃っていました。
川名写真館では、結婚式や葬儀、誕生、卒業など地域の人々の写真も数多く撮影されています。大正から昭和初期には、写真撮影は人生の特別な日に欠かせないものとなっていました。