明治30年代以降、写真を使った絵はがきが流行し、名所旧跡を写したものや、建築物の竣工記念、国家的な行事や災害から学校の運動会まで、さまざまな絵はがきが各地で発行されました。安房でも多くの絵はがきが作られ、川名写真館も絵はがきを発行しています。
川名写真館に伝わった5,000点以上のガラス乾板や写真の中には、安房の風景・建物や、祭礼などの行事を撮影したものが数多くあります。これらの写真には、(1)絵はがき製作用や芸術写真として撮影したもの、(2)依頼を受けて撮影したもの、(3)自家用として撮影したものなどがありますが、その差は明確ではありません。例えば、川名写真館の地元で行われた館山祭礼の写真は、業務として撮影したのか、自家用なのか判然としません。また、関東大震災の被災状況写真は、絵はがき製作用というだけでなく、歴史的災害の状況を記録しようという川名竹松の医師も感じられます。
こうした写真からは、当時の景観やできごとを視覚的に知るだけではなく、地域における写真館の役割をうかがうこともできます。