「安房の人物シリーズ」は、江戸時代末期から大正時代にかけて、安房という風土に育まれ、安房の文化を担ってきた人々を紹介するシリーズです。2回目は、幕末維新期に兵学者として活躍した恩田仰岳をとりあげます。
恩田仰岳は文化6年(1809)、駿河国田中に生まれました。文武奨励の気運が高まるなかで、江戸で長沼流兵学を学んだのち、田中藩の兵学師範となり、西洋流の砲術をとり入れるなど、幕末の藩の軍務に尽力しました。
明治元年(1868)田中藩は安房へ移封され、長尾藩となります。仰岳は、兵学者として安房での城地選定に携わりますが、まもなく隠居して、その後は約20年にわたって白浜の自宅で後進の指導にあたりました。仰岳の子恩田城山も、ともに教育者として地域に貢献し、その門人の中からは、安房の教育や経済を担う数多くの人材が育っています。
幕末という時代の波は、多くの武士たちを翻弄させましたが、それがかえってこの安房と仰岳を結びつけ、仰岳はついにはこの地で生涯を終えました。本書が兵学者でもあり、かつ教育者でもあった恩田仰岳を知る一助となり、また幕末から明治にかけての社会の変動を伝える機会となれば幸いです。
なお本書の編集にあたり、多くの方々より様々な情報をいただき、また所蔵者の方々には調査に快く応じていただきました。心よりお礼を申し上げます。
平成6年2月11日
館山市立博物館長 松田昌久