ごあいさつ

 館山市役所の駐車場には2本の夏蜜柑の木があります。この木は、安房地方の農業を近代化へと導いた人物が植えたもので、この土地はもとその人物の農園でした。また県立安房南高校の校歌を作詞したのもこの人物です。意外と身近なところで多くの方と接点のあったのが、今回紹介する万里小路通房です。

 安房地方の風土や文化に影響を与えてきた人物のひとりで、明治20年代から昭和7年に没するまでのおよそ40年間を北条で過ごした、京都出身の公卿華族です。明治維新で活躍し、イギリス留学ののち明治天皇に近侍しましたが、退官して北条に隠棲するようになります。近代農業の指導や思想風俗の善導、文化活動などを通して安房地方の人々と交流し、多くの影響を与えてきました。

 本書は安房郡内に残る万里小路通房関係資料の調査結果をまとめ、その人物と事績および地域の人々との交流の様子を紹介しました。本書が伯爵万里小路通房を知る一助となり、また本書をとおして近世から近代へと新しく変わっていく明治・大正という時代を感じていただければ幸いです。

 なお本書の編集にあたり、多くの方々よりさまざまな情報をいただき、また所蔵者の方々には調査に快く応じていただきました。心よりお礼を申し上げます。

 平成8年2月10日

館山市立博物館長 松田昌久