小型の絵馬に描かれた数々の動物の図は、祈願内容を考えながら眺めると、絵解きのような趣がある。魔除けの意味を持つ「虎図」(図版24)や、虫害防止を願って、虫を食べてくれるミミズクを描いた「鳥図」(図版27)などは、その動物本来の特性を生かした祈願内容で、比較的推察もしやすいが、絵を見ただけでは何を意味するのか、わかりにくいものもある。例えば「鶏雛図」(図版23)は、鶏が夜に鳴かないことから、子供の夜泣き封じに奉ずるもので、「蛸図」(図版26)は、蛸の吸盤で腫物や疣を吸い出してもらおうという祈願である。また「牛図」(図版25)は、牛が食う草(クサ)を瘡(カサ)になぞらえて、これをきれいに治してもらおうという願いが込められている。このほかに、ある特定の動物が信仰の対象となっている場合もある。鰻は、伊豆三島神社の使いとされているほか、虚空蔵菩薩に関連する土地に住むものは、これを食べないなど、神仏との関わりが深い。鰻を描いた絵馬は、安産や子授けを願ったものであるが、「鰻蟹図」(図版22)には、これに加えて、生まれた子供が蟹のように早く這うことができるようにという成育祈願の意味も含まれている。いずれにしても、個人的な祈願が第三者に容易に悟られないように、まるで謎掛けのような図柄となっているのである。