小型の絵馬は、奉納者の個人的な願いを託したものが大半であるため、図柄・内容ともに種類が豊富であるが、そのなかでも最も多く見られるものが、祈願の図である。これは、人物の礼拝姿を描いたもので、構図には一定の形式があるものの、拝む人物の数や衣服、あるいは拝む対象によって数々のバリエーションが生まれ、時代の風俗も読み取ることができる。また、他人に祈願内容を悟られないように、背景の中に祈願の意図を含めるような配慮がなされているものもある。
眼病平癒祈願の絵馬は、関東地方を中心に薬師様でよく見られるものの一つである。その多くが「め」という字を描いた図柄となっているが、富浦町常光寺の「眼病平癒報謝図」(図版18)は、その祈願の様子を描いたものであり、願いが叶い直ちに治りましたという、薬師様への感謝を意味している。
幼児を抱えた婦人が乳を絞り出している図柄は、一般に「乳しぼり」と呼ばれているものである。これは、乳のでない人が授かりに、あるいは乳のあり余る人が預けにまいる際に奉ずる絵馬であり、富浦町の真勝寺(図版19)にその数が多い。
断ち事の祈願には、錠を描いたものがある。江戸時代末に、心という字に錠を掛けた絵馬が掲げられて一躍評判になったことから、この種の絵馬が普及した。賽に錠の図は賭博(図版20)を、樽に錠の図は飲酒(図版21)を、それぞれやめようと誓ったものであろう。