【7】芸能・文芸の図

 歌舞伎や芝居の題材は、絵馬に好んで描かれるものの一つであるが、安房地方ではその数が極めて少ない。しかし、館山市那古寺の「古今兄弟兵曽我草摺引図」(図版52)は、鳥居清倍の手によるといわれる大作である。初代団十郎と思われる曽我五郎と、中村伝九郎と思われる朝比奈三郎の荒事場面を描いたもので、力強さを表現する「ひょうたん足みみず描き」の技法が用いられている。

 江戸後期には文芸の広まりにともない、柿本人麿や小野小町の図に和歌を添えた絵馬も納められた。