安房地方を紹介する戦前の旅行案内書は数多く出版されていました。ここには目に触れることのできたものだけですが、一覧にして紹介してみました。こうした案内書をみただけでも、館山が観光地として移り変わっていく様子を読み取ることができます。
明治時代の案内書は、まず土地の名所旧跡を紹介することからはじまりました。那古寺や崖観音・小網寺・鶴谷八幡神社などの由緒ある寺社や、里見氏ゆかりの、城跡、鏡ケ浦や大房岬や洲崎などの景勝地、塩見の臥龍松などの名勝といった見所を紹介するもので、明治初期にまとめられた他誌の実績をふまえたものでした。観光の原点は風景を観ることだといいますが、海水浴を目的に鏡ケ浦を訪れる旅行者も、良い景観や知的好奇心を満足させる由緒をもつ旧跡に関心をよせ、また郷土を愛する人々もそれを誇らしく紹介したわけです。そして土産としての名所絵葉書も大量につくられていました。
明治の末から大正時代になると、旅行者の増加にともなって、交通機関や宿泊施設の紹介はもちろん、旅行者の休養のための遊び方の紹介や、土産・観光設備の紹介など多岐にわたるようになっていき、名所紹介も観光資源としての見所紹介的な記述になっていきます。絵葉書も都人士が喜びそうな田舎らしさを紹介するものがでてきます。旅行者の便利を考慮するとともに、営業の要素が前面にでてくるわけです。
また大正時代までは、地元書店などが安房地方の範囲で案内書を作るケースが多くみられましたが、鉄道が整備され、安房北条駅まで路線網が延びてくると、安房地方の紹介も鉄道の路線案内形式のものになり、千葉県内をエリアにしたさらに広域の案内書になっていきます。地元からの出版は減っていきますが、それに代わって、簡便な栞が各町や個別の旅館、交通機関などから発行されるようになっていきました。
こうした地元からの案内書にくわえ、東京などの出版社が旅行作家に書かせた旅行記ふうの案内書も数多く出版されています。ちなみに昭和4年の『俺が房総』の著者水島芳静は千歳村(現千倉町)出身の旅行記者で、日本遊覧案内刊行会を創設しています。
28.避暑避寒房州案内(明治37年)
成田山仏教図書館蔵
106.安房名勝地誌(明治30年)
船橋市西図書館(無断転載禁止)
108.新撰名勝地誌(明治43年)
個人蔵
108.房総・水郷・常磐地方(昭和12年)
個人蔵
105.俺が房総(昭和4年、6年)
成田山仏教図書館蔵
105.其の日帰りと一夜泊り
成田山仏教図書館蔵
93.房総の観光(昭和6年)
千葉県立中央図書館蔵
105.名家紀行総水房山
成田山仏教図書館蔵