ごあいさつ

 豊富な森林資源に恵まれた日本人は、古代より木の家に住み、木からさまざまな道具を作り出して、木の文化の中で生活してきました。そうした木を加工する職人はさまざまありましたが、木工技術者といえばなんといってもかつて「木(こ)の道(みち)の匠(たくみ)」と呼ばれた大工に代表されます。

 江戸時代、専門の分野に分かれた大工のなかでも、寺院建築や神社建築に従事する大工を特に宮大工とよびます。社寺建築は多くの部材が複雑に組み合わされるため、特殊な技術が要求されました。

 わが安房地方にも、かつては多くの宮大工がいました。建築の技術から経営にいたるまでの多くの素養を身につけ、数々の建築を手懸けたのです。

 この企画展では、江戸時代の宮大工の姿を明らかにしつつ、幕末に行われた安房国総社鶴谷八幡宮の造営と、これに係わった安房地方の宮大工たちについて紹介します。彼らの仕事をとおして、建築や彫刻などに残された安房の文化の一端を知る機会となれば幸いです。

 なお、本展の開催にあたり、多くの方々よりさまざまな情報をいただき、また快く資料の出陳をご承諾いただきました。厚くお礼申し上げます。

  平成3年10月19日

館山市立博物館長 松田昌久