歴史・美術・文芸といった文化活動は、わたしたちの生活にゆとりを与え潤いをもたらしてくれるものです。今回のテーマとした俳諧・俳句という文芸もわたしたちの身の回りの日常生活や自然のなかから、季節の変化や人生の機微あるいは笑いを生み出す智識と感性の文芸として、現在も多くの人たちに広く浸透し親しまれています。
芭蕉によって人生詩として確立された俳諧は、江戸時代の中期頃、庶民生活のなかに文芸文化が浸透していくなかで、確実に底辺を広げていきました。地方の村方では文芸文化のリーダーとなる存在が成長し、彼らの周辺では多彩な文芸活動が展開しています。
江戸生活を経験する人たちが多い房総では江戸文化が広く浸透し、また江戸から来る多くの文化人たちとの交流を通して村方での文芸熱は高まりました。なかでも裾野を広げたのが俳諧といえます。江戸時代から明治時代にかけて、ここ館山でも極めて多くの人たちが俳諧に親しみました。俳諧では批評をしてくれる宗匠の存在が大きく、地域の宗匠たちは江戸の宗匠に指導をうけて江戸の文化を吸収していました。
今回の企画展では、俳諧を通して江戸の文化を吸収し地域に浸透させていった俳人たちの活動と、俳諧から近代俳句への移り変わりの様子を紹介しながら、地域の歴史を考えてみたいと思います。
なお、本展の開催にあたり、多くの方々よりさまざまな情報をいただき、また貴重な資料をご出品いただきました。ご協力を賜りました皆様に、厚くお礼申し上げます。
平成16年2月7日
館山市立博物館長 石野裕男