ごあいさつ

 「安房の人物シリーズ」は、江戸時代末期から大正時代にかけて、安房という風土に育まれ、安房の文化を担ってきた人々を紹介するシリーズです。3回目は、郷土に生きた職業絵師の勝 山調(かつ・さんちょう)を紹介します。

 勝山調は本名を鈴木市蔵といい、宝暦12年(1762)に生れた安房郡沼村(現、館山市)の人です。天保9年(1838)に77歳で没するまでの間、数多くの作品を残していますが、その生涯や、誰について絵を習ったのかなどは、よく分かっていません。

 残されている多くの作品には、寺社の絵馬や欄間絵、「庚申」「二十三夜」等の神仏画や、節句の幟旗など、依頼されて描いたと思われるものがあります。また、山調は自らを画工と名乗るように、後進の育成のために、教科書的な作品も多く描いています。

 それらの作品の中には郷土を描いたものも含まれており、当時の人々の暮らしを物語る貴重な資料といえます。

 本書が勝山調、ならびに郷土に生きた職業絵師の姿を知る一助となれば幸いです。

 なお本書の編集にあたり、多くの方々より様々な情報をいただき、また所蔵者の方々には調査に快く応じていただきました。心よりお礼を申し上げます。

 平成7年2月4日

館山市立博物館長 松田昌久