7.あなたがいたからこそ

 こうして虚籟は念願の綴錦曼荼羅中央部の三尊仏を完成させた。曼荼羅謹作を発願してからすでに17年、三尊仏だけでもこの間10年の歳月が経過している。

 虚籟は「これで自分もやっと芸術家として満足できる作品を後世に残すことができた」といって安堵し喜んだ。秋野は同志ではあるが、自分を一人の芸術家としてみたとき、何か取り残されたような寂しさを感じて、「私は何もできなかった」とつぶやいたという。

 これを聞いた虚籟は「何もしなかったのではない。これはみなあなたがいたからこそできた合作である」と感謝したという。虚籟67歳、秋野49歳になっていた。