曼荼羅とはサンスクリット語のmandalaの音写で、調和と共生の精神を説く。奈良・当麻寺に伝存している国宝「当麻曼荼羅(浄土変観経曼荼羅)」は、阿弥陀如来を中心に数多くの仏が集まる極楽浄土世界の情景を表現したもの。この当麻曼荼羅図は、我が国最古の綴錦織裂地として貴重な資料である。
『当麻曼荼羅縁起絵巻』によると、「天平宝字7年(763年)横佩(よこはき)大臣の姫・中将姫(法如尼)が当麻寺に入り、生きた阿弥陀仏を拝みたいと思い修業を続けていたところ、尼僧(観音)があらわれ極楽浄土を拝ませてあげるから蓮の茎を集めよという。尼僧はその蓮糸で観経曼荼羅図を織り上げて法如尼に授けた。この曼荼羅を仰いで法如尼は極楽往生を遂げた」という。
人類の共存と世界平和を願う虚籟にとって、当麻曼荼羅は綴錦織技法の研究だけでなく、まさに虚籟の世界観・人間観に相通ずるものであった。
戦争犠牲者の供養と世界平和を願う虚籟は一大綴錦織の制作を発心し、自ら曼荼羅の設計図ともいえる見取図を画いている。