八犬伝の舞台

里見八犬伝の舞台をめぐる

(1)JR岩井駅前(富山町)

(1)JR岩井駅前(富山町)

 伏姫と八房のブロンズ像がある。

(2)伏姫籠穴(富山町合戸)

(2)伏姫籠穴(富山町合戸)

 富山中学校からさらに奥へ行くと、まるで物語にあわせて作ったような洞穴が富山の中腹にある。中には八つの玉がおかれ、周辺も整備されている。駐車場完備。駐車場から少し高いところには、物語のなかで八房を埋めてつくった犬塚の石碑もある。もちろん大正時代になって建てた石碑である。

(3)福満寺(富山町合戸)

(3)福満寺(富山町合戸)

 入口に大正元年に建てた富山登山道の道標がある。伏姫籠穴への案内にもなっている。

(4)富山(富山町)

(4)富山(富山町)

 山頂に福満寺が管理する観音堂がある。物語では伏姫の菩提のために建てたことにしている。その横には明治・大正期の文学者巌谷小波(いわやさざなみ)の句碑がある。「山高きが故に貴からず、曲亭翁の霊筆によりて、この山長へに高く尊し。 水茎の 香に山も 笑いけり」(大正8年)
 ちなみに「富山」は、小説では「とみさん」ではなく「とやま」と呼んでいる。

(5)犬懸の里(富山町犬掛)

(5)犬懸の里(富山町犬掛)

 八房は犬懸の百姓の家に生まれ、狸の乳で育った。首と尾に八つの斑点(ぶち)があることから、八房と名付けられた。春日神社下に八房と狸のブロンズ像がある。

(6)滝田城(三芳村上滝田)

(6)滝田城(三芳村上滝田)

 神余(じんよ)氏の居城。家臣山下定包(さだかね)に城を乗っ取られたが、定包はほどなく義実に滅ぼされ、義実の居城になった。このとき義実に処刑された定包の側室玉梓(たまずさ)の怨念が里見家に崇ることになる。八犬士はその崇りと戦っていくのである。(史実では、神余(かなまり)氏の居城は館山市神余にあり、滝田城は一色氏の城。もちろん義実の居城でもない。)
 城跡に伏姫と八房のブロンズ像がある。駐車場あり。

(7)延命寺(三芳村本織)

(7)延命寺(三芳村本織)

延命寺 文化財マップ

 里見氏の菩提寺として有名。丶大法師が住職し、里見家に敗れた将士たちの供養が行なわれた寺。

(8)稲村城(館山市稲)

(8)稲村城(館山市稲)

稲区と稲村城跡 文化財マップ

 物語の後半に出てくる城。義実が隠居したあと、嫡子の里見義成(よしなり)が居城にした。

(9)館山市立博物館分館(館山市館山)

城山 文化財マップ

 里見氏が最後に居城にした館山城跡にある。八犬伝の資料を展示。博物館には1400点に及ぶ八犬伝資料のコレクションがある。ちなみに物語のなかでは、館山城は安西景連の居城だった。

(10)養老寺(館山市洲崎)

(10)養老寺(館山市洲崎)

養老寺 文化財マップ

 役の行者(えんのぎょうじゃ)を祀る祠がある寺として知られている。3歳まで声を発しなかった伏姫を心配した義実は、洲崎明神近くの役の行者の窟へ祈願し、お札参りの帰り道で伏姫生涯の護身として、役の行者から「仁義礼智忠信孝悌」の8文字が彫られた数珠を授かった。のちに八犬士が所持する珠である。

(11)野島崎(白浜町白浜)

(11)野島崎(白浜町白浜)

 結城の合戦に敗れた義実は、三浦半島から安房の白浜へ渡った。そのとき吉祥の龍をみる。

『南総里見八犬伝』の概要

 『南総里見八犬伝』は、江戸時代の文豪 曲亭馬琴 が1814年から1841年までの28年もの年月をかけて著した長編小説です。戦国時代に安房の地を活躍の拠点とした房総里見氏の歴史を題材にしていますが、けっして歴史事実にはこだわらず、そのすべてが創作されたものです。

 この物語の主題は、「勧善懲悪」と「因果応報」にあります。悲劇の最後を遂げた里見家や安房地方の善良なる人々などをとりあげて、馬琴の意のままに大活躍させる爽快な小説になっています。

 物語は、結城の戦いに敗れた若武者里見義実(よしざね)が、安房へ落ちのびる場面からはじまります。

 やがて滝田の城主になった義実は、隣国の館山城主安西景連(かげつら)の攻撃にあった。愛犬八房(やつふさ)の働きによって敵将景連は討ち取ったものの、その功績で八房は伏姫(ふせひめ)を連れて富山の洞窟にこもった。やがて姫を取り戻しにきた許婚の金碗大輔(かなまりだいすけ)は、鉄砲で八房を撃ち殺すが、伏姫にも傷を負わせてしまう。八房の気を感じて懐妊していた伏姫は、身の純潔を証明するため、大輔と父義実が見守るなか、自害してしまった。

 このとき、伏姫が幼い頃に役の行者(えんのぎょうじゃ)から授かっていた護身の数珠から、八つの玉が飛び散った。この玉が八方へ飛んで、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の霊玉を持つ八犬士が登場してくることになる。

 こののち、金碗大輔は出家して丶大(ちゅだい)法師となり、飛び散った八つの玉の行方をもとめて旅に出る。伏姫の子供ともいえる八犬士たちは、それぞれ思いがけないところで出会い、はなばなしく活躍する。

 八犬士たちとめぐり会った丶大法師こと金碗大輔は、やがて八人を里見義実のもとへ連れ帰った。里見家の家臣として里見家の危難を救った八犬士は、義実の八人の孫娘をそれぞれ娶る。その後、子どもたちに家督を譲ってからは、富山の山中へ姿をかくして仙人になったというお話。

八犬士と玉の文字

犬江親兵衛仁(いぬえしんべえ まさし)

 【】儒教の根本理念で自他のへだてをおかず、一切のものに親しみなさけ深くあること。愛情を他におよぼすこと。いつくしみ。おもいやり。

犬川荘助義任(いぬかわそうすけ よしとう)

 【】道理。人間として行なうべきすじみち。利害をすて、条理にしたがって人のためにつくすこと。

犬村大角礼儀(いぬむらだいかく まさのり)

 【】人の行なうべき道。社会の秩序を保つための生活上の定まった形式。敬意をもって、きまりに従うこと。うやまっておじぎをすること。

犬坂毛野胤智(いぬさかけの たねとも)

 【】物事をよく理解し、わきまえていること。かしこいこと。是非を判断する心の作用。ちえ。

犬山道節忠与(いぬやまどうせつ ただとも)

 【】真心をつくして忠実なこと。まめやか。主君に対して臣下としての真心をつくすこと。

犬飼現八信道(いぬかいげんぱち のぶみち)

 【】あざむかないこと。言をたがえぬこと。思い込んでうたがわないこと。信用すること。帰依すること。

犬塚信乃戌孝(いぬづかしの もりたか)

 【】父母によく仕えること。父母を大切にすること。

犬田小文吾悌順(いぬたこぶんご やすより)

 【】よく兄または長者(年長者など)につかえて従順なこと。弟または長幼間の情誼の厚いこと。