(2)失われた獅子の伝承―残された獅子頭― 

 昭和12年(1937)と昭和14年(1939)の古野清人氏の調査によると、安房地方には34ヶ所以上でかっこ舞が踊られていたことが確認されています。明治維新まではさらに多くの地域でおこなわれていましたが、廃藩置県による郷村組織の改変などによって廃れていきました。また、田村勇氏は明治の廃仏毀釈によって修験の関与が絶たれた結果、三匹獅子舞の存続に大きな影響を及ぼしたと指摘しています。

 雨乞いや踊りの伝承は途絶えていても、かっこ舞に用いられたと思われる獅子頭が、寺社や祭の当番のために道具を管理していた家に残されていることがあります。

 多くの安房地方の獅子頭には角がありません。角がある頭もありますが、目をひくほど大きなものはありません。宝珠や耳のあるものもあり、頭の大きさ、模様、歯の色や形で見分けます。歯が黒く塗られた獅子はお歯黒をした雌をあらわしているとされ、2頭の雄獅子が1頭の雌獅子を巡って争っている伝承や、親子の獅子であるとの伝承が伝えられています。