ご挨拶

 良く晴れた日に、海を隔ててくっきりとうかびあかる富士山の姿は、安房に住む者なら誰でも一度は目にする印象的な光景です。

 富士山への信仰は、富士山を仰ぎ見る場所で、富士山そのものを拝むことから始まったといいますが、この安房の各地には、富士山を望む小高いところに「センゲンサマ」とよぶ富士の神様がまつられ、場所によっては富士山の山開きにちなんだ行事が続けられています。

 また江戸時代から明治時代にかけて、安房からもたくさんの人が富士山へお参りに出かけました。そうした中には、今とは全く異なる交通事情であるにもかかわらず、百回以上も登山をくり返した熱心な人もいるのです。

 現代のように登山がレジャーとなる以前、富士山は信仰の山であり、登山はすなわち修行そのものでした。彼らは富士山の何に魅かれ、何を求めて登山をくり返したのでしょう。

 この展覧会は、身近に見える富士山と安房とのつながりを、富士への信仰を切り口として改めて見つめなおそうと企画いたしました。富士をめざした人たちが残した数々の資料から、安房の中に生きている富士信仰のすがたを知っていただく機会となれば幸いです。

 本企画展の開催にあたり、多くの方々からさまざまな情報をいただき、また貴重な資料をご出品いただきました。ご協力を賜りました皆様に、厚くお礼申し上げます。

平成7年10月7日
館山市立博物館長 松田昌久