人々の生活のなかで病は常に身近につきまとい、命にかかわる大きな悩みでした。その苦悩から免れるために薬や祈りがあり、またそれを扱う人々がいました。江戸時代の後半になると、村方にも医療知識をもった人々が大勢現れるようになり、医者どんとして頼られ尊敬されるようになります。
「医者どん」とは「医者殿」という尊称で、むかし医師が出た家を今も「イシャドン」という屋号で呼ぶことがあります。医師が地域のなかでどのように意識されていたのかわかりますが、医師は薬の知識や医療技術をもつだけでなく、名主として村の運営に携わったり、文化的な素養をもって地域の教育に関わり、また各地の文化人と交流するなど、多様な活動をする面を持っていました。
この特別展では、明治になって近代医学に移行するまで、安房地方にも数多くいた村の医者どんについて、村の有力者でありかつ文化人としても地域をリードしていた医者どんのさまざまな姿を紹介します。
なお、本展の開催にあたり、多くの方々よりさまざまな情報をいただき、また貴重な資料をご出品いただきました。ご協力を賜りました皆様に、厚くお礼申し上げます。
平成20年2月2日
館山市立博物館長 山口幸夫