東上牧遺跡は、鴨川市嶺岡の標高200mの山中にあり、七鈴鏡や「長者」銘陰刻の土師器片、三彩宝珠紐蓋、須恵器宝珠紐蓋、銅鋺などが出土している。異様な出土状況や遺物の内容から火葬墳墓跡ではないかという推測がなされたが、遺跡の性格は不明である。
七鈴鏡は、七鈴のうち四鈴に小さな玉石が入っている青銅製のものである。鈴鏡は古墳時代後期に、毛野すなわち現在の群馬県を中心に流行したが、房総では大変珍しいものである。この鈴鏡を、8世紀代のものである他の伴出遺物と比較すると、奈良時代まで、伝世されていたものだと考えることもできる。
ところで、館山市沼つとるば遺跡から7世紀代の土製七鈴鏡が出土しているが、この時期は鈴鏡の使用がほぼ終わっている時期であり、東上牧遺跡出土の七鈴鏡が伝世されていたものだすると、安房には鈴鏡使用の「まつり」が残されていたと考えられる。古代の鈴の音には深い謎が秘められているが、解明はこれからというところである。
七鈴鏡(鴨川市東上牧遺跡) 古墳時代
国立歴史民俗博物館蔵
土製七鈴鏡(館山市沼つとるば遺跡) 古墳時代
個人蔵
三彩宝珠紐蓋(鴨川市東上牧遺跡) 奈良時代
国立歴史民俗博物館蔵
「長者」銘土師器破片(鴨川市東上牧遺跡) 奈良時代
国立歴史民俗博物館蔵