西別府遺跡-埼玉県熊谷市- 水の神まつり

 水は農民にとって重要ですが、渇水(かっすい)はもちろん、平成5年の夏のように冷雨続きでもいけません。したがって農と水の関係では、「雨乞(あまご)い」と「日乞い」が同様に重要で、古代の水源祭祀を考えるうえで大きなヒントがあります。

 埼玉県熊谷市の西別府遺跡は、湯殿(ゆどの)神社の裏の湧水地周辺にあります。かつてここは、北側の水田と一帯になり別所沼を形成し、かなり広範囲の水田をうるおしていたと考えられています。ここから8世紀代の土器とともに、石製模造品が大量に出土し、それらは馬形・櫛(くし)形・勾玉(まがたま)形・有孔円板(ゆうこうえんばん)有線円板形・剣形の6種類からなります。このなかで、水神と関係深いのが馬です。馬は神の乗物として神聖視され、生馬を神に献上(けんじょう)する風習を『常陸国風土記』(ひたちのくにふうどき)などから知ることができ、後世にはそれが簡略化されて絵馬となりました。雨乞いには黒馬、日乞いには白馬の絵馬を奉納することは皆さんご存じの通りです。また櫛も各地の井戸跡から多数出土していますので、水神との因縁が考えられます。この水源地での神まつりの場が固定化し、後世に水神をまつる神社となったのでしょう。

11.埼玉県熊谷市西別府遺跡出土遺物

11.埼玉県熊谷市西別府遺跡出土遺物
石製模造品(櫛形・剣形・勾玉形)

11.埼玉県熊谷市西別府遺跡出土遺物

11.埼玉県熊谷市西別府遺跡出土遺物
石製模造品(馬形)

11.埼玉県熊谷市西別府遺跡出土遺物

11.埼玉県熊谷市西別府遺跡出土遺物
石製模造品(有線円板形・有孔円板)

(以上、國學院大學日本文化研究所蔵)